第6回吃音勉強会「吃音の学術論文を読んでみる」

【報告】

 本日は、「吃音の学術論文を読んでみる」ということで、国立障害者リハビリテーションセンター学院の坂田善政先生が書かれた「成人吃音例に対する直接法」という論文を皆で読みました。
 参加者として、急きょ国立障害者リハビリテーションセンター病院のSTの角田さんにもお越しいただき、現場での興味深い話も交えながらの勉強会で、刺激のある会になったのではないかと思います。
 人数が灰谷・角田さん含めて5名だったのはもったいないような気もしましたが、今後も、現場の臨床家の方、研究者の立場、当事者の立場からの話を交えつつ勉強会を進められれば面白いのではないかと思いました。
 論文では、流暢性形成法・吃音緩和法・統合的アプローチの大きく3つが取り上げられていましたが、いずれも吃音症状そのものに対する持続効果は小さそうであること、また、そのような治療法の臨床研究を行うのはかなりコストがかかるため実施が難しく、結果として吃音の治療法の科学的データが蓄積されにくいことなども話しました。
 「当事者の立場から、吃音支援体制の発展に何ができるのか?」という疑問についても考えましたが、なかなか具体的な行動が提案しにくく、「治療研究によって科学的データを出すこと」が行政に働きかけるためにも有用ではないかなどと考えました。
(灰谷)

【感想】

 10/31(土) 桜木公民館にて、早稲田大学院にて吃音について学ぶ灰谷さんを中心に坂田善政著「成人吃音に対する直接法」の論文を読み、皆で議論を行った。また国立リハビリテーションセンターにて勤務され、実際に幼児吃音に対する臨床を行っている角田先生もお招きし、いろいろとご教授を賜った。
 そのなかで学ばせて頂いたことは主に以下の三点であり、まず1つめとしては成人吃音例への訓練法は主に「流暢性形成法」と「吃音緩和法」および「統合的アプローチ」があること。そして間接法にはメンタルリハーサル法がある。2つめとしては、近年では統合的アプローチの立場をとる臨床家が多いこと。そして3つめとしては、臨床研究の蓄積と向上や相談機関の拡充・言語聴覚士の専門性の向上が求められていることを知りました。

 とくに議論となったのは、近年多く行われているといえる統合的アプローチについてであり、統合的アプローチでは主に流暢性形成法と吃音緩和法のほかに、この言友会(セルフヘルプグループ)等への参加や認知行動療法等も勧められていることを知り、とても興味深かったです。
 また、成人吃音についても長期的な訓練を適切に行うことで感情・態度面において大きな改善が持続することを知り、言語訓練に対する認識が大きく変わりました。

 しかし、現状においては上記でも少し触れたように成人吃音に対する相談機関が少ないだけでなく、言語聴覚士における臨床も対象者が少ない、または知識がないことを理由に進んでいない現状を知り、深く問題を考えていかなければいけないことに気づかされた。
 以上のように自身の経験も踏まえながら皆で議論を交わしたが、現状の成人吃音に対しての臨床および研究状況や諸問題を知ることができ、とても勉強になりました。
 これを機会に引き続き吃音について様々な視点から学んでいけたらと思います。

(土屋)


 今回は直接法に関する論文を読んで、その内容について話し合いました。

 直接法というのは、軟起声等による引き伸ばし発話や、わざと軽く吃ったりしながら認知行動療法など心理面のアプローチも行い、吃音症状の軽減と吃音者の感情や態度の変容を目指すというものです。その効果は、一定のリバウンドが認められるものの、概ね持続的な改善が見られた、ということです。

 論文を読み、専門家のお話を聞いていくなかで、私自身も体験した改善方法がいくつか出てきたりして、STによる吃音外来のみならず、言友会や民間矯正所等でも今までに数多くやられてきたことばかりで、日本は進んでいるんじゃないかな・・・などと軽々しく思っていたんですが、エビデンスとして評価されるものは諸外国に比べかなり少ないと聞き、愕然としました。

 無作為であったり、作為があっても統制の取れた持続的な研究にはかなりの費用がかかり、行政等の支援がないとかなり難しいとのことでした。

 また、そもそも吃音治療の診療報酬の点数は、言語聴覚分野の他の症状に比べて低く、やりたがるSTさんが少ないようだ、ということもわかりました。

 吃音で困っている人はたくさんいるのに、予算がなかなか下りてこない問題を、早急に何とかしないといけないということを、あらためて強く思い知らされました。画期的な成果を世に送り出すためにわれわれ当事者は多くの治療研究に積極的に協力しなければなりませんし、また個人的には、吃音が身体障害として認められ、自立支援医療の枠組みに入ることも有効な手段のひとつではないかと思いました。

(Web担当 松村)