8月 第4回新・吃音勉強会

●吃音におけるVR×心理療法の可能性(梅津)

◎事前の告知文◎

 埼玉言友会の今回の例会を担当する梅津です。

今回の例会のテーマは「吃音におけるVR×心理療法の可能性」です。

吃音とVR、全然関係ないように見えると思いますが、実はVRは吃音に対して様々な可能性を秘めています。私は2017年から3年間、海外の大学や研究所、医療機関でVRが精神障害、発達障害、メンタルヘルスへ応用された事例や研究に関する論文やデータを読み漁り、吃音臨床におけるVR技術の応用可能性の研究をしてきました。実際にアメリカとイギリスでは、吃音者にVRを使い、吃音に併発する社交不安の改善に効果があり、結果的に吃音の症状や悩みも軽減した。または、吃音の臨床にVRは十分活用できるというデータがあり、それをもとにプレゼンVR、面接VR、自己紹介VR、電話練習VRを開発しました。現在は吃音当事者の臨床心理士と言語聴覚士の方からご意見をいただき、開発、研究を進めております。そして、すでに日本でもうつ病や不安障害を改善するVR企業が出てきており、これから数年で日本でもVRが病院で使われる、そんな未来が実現しようとしています。

そんな国内海外におけるVRにおけるメンタルヘルスの最新事例から、吃音におけるVRの可能性の話をさせていただきければと思います。時間がありましたら、自分が開発しているVRの実際の映像も流せればと思います。その後、自由に色々ディスカッションできればと思います。VR×心理療法による吃音改善という新たな可能性に興味がある方は是非、ご参加ください。 よろしくお願いします。

担当者による報告文◎

 今回、吃音におけるVR×心理療法の可能性というテーマでお話をさせていただきました。海外におけるVRのメンタルヘルス領域での活用事例や研究から、国内におけるVRのメンタルヘルス領域での活用、研究事例。VRが脳に影響を与えるという話、発達障害を改善するゲームがアメリカで薬として承認されるなどの話など、それからVRが吃音でどのように活用されているのかという海外のVRを吃音臨床に応用した研究や自分の吃音を改善するVRの研究の話など、かなり盛り沢山になってしまい、資料も200ページを超え、ちゃんと参加者にとって価値ある時間にできたかどうか不安でしたが研究者の方、支援者、当事者の方にご参加いただき、質問も多く頂き、吃音以外にも統合失調症へのVRの研究に関する話など、吃音を様々な角度から考えられ、自分としてはやって良かったなと思いました!

 こういった自分の研究の学びや得たことを発信すること、それを通じて、いろんな立場の人で、様々な角度からディスカッションすることの大切さ、楽しさを改めて感じました。勉強会を開催する機会をくださった山田さんに感謝したいです。ありがとうございました!

◎参加者の感想(一部)◎

●(Oさん)

 今回は、バーチャルリアリティのさまざまな医療などでの活用事例と、吃音でのスピーチ、面接に対する不安を軽減するための練習への応用の可能性を知ることができました。全然知らなかった例が知れて良かったと思いました。想像以上にVRで体験する世界が人間に影響を与えるのだなという驚きを感じました。これからもこれらの分野の発展があれば知りたいなと思いました。

●(Aさん)

 VRのマスクを無くしていて、実際にZOOMで話しを聞きたくなった。

ZOOM例会で共有して、吃音者同士がVRの講議のスライドを視聴するのは初めてだった。就労前に受けたVRは面接対策で選択肢の一つだったと自己理解をし直した。皆さんがZOOM例会のスライドを見終わった後、吃音勉強会は今後していきたいですか?と各自意見を出し、自分が就職活動をしているので就職活動をする方に役立つ内容も求めたいと答えた。企画してもらい良かった。

●(山田)

 今回は、VRを使った心理治療についての勉強会でした。

正直な話をすると、僕は、吃音を持つ人へのVRを使った治療法、ということに関しては、結構、否定的と言うか及び腰の姿勢を取っています(エンタメの分野でVRを使うことについては、僕は面白そうだな、と思い、「やってみたいな」という気がしますが)。というのも、自分が吃音について悩んでいたころ、求めていたものが、VRによる心理療法であったとはどうしても思えないからです。

 勉強会でもいろいろと述べましたが、本当に、僕らが必要としているのが、新自由主義的な社会に適応することを目指した「ただの療法」なのか。「どもる」という言語的な症状であれ、「不安」という心理的な症状であれ、吃音を持つ人が抱えている問題を、治すべき治療対象としてとらえる医学モデル的な考え方が背景にあることには変わりません。そこには、自分自身の生きづらさを大切な経験としてとらえ、そこから思想を深めたり、その経験をきっかけに人との深いつながりを見出していったり、さまざまな人に対する想像力を養う、というような「豊かさ」がひらかれているようには、僕はどうしても思えずにいます。

 また、適応を目指した療法や、成功体験に基づいた心理的なエンパワメントは、自己有能感にはむすびついても、自己肯定感にはつながらないような気もします。SSTとしてのVRは、たしかに、「コミュニケーション能力」のエンパワメントにはつながると思いますが、本当に自分自身の身体を肯定することになるのか。疑問に思いました。VRを求めている当事者が居れば、その文脈を消す権利は誰にもありませんが、昔から吃音の世界では「氷山仮説」ということが言われています。僕自身の経験を振り返っても、自分が悩んでいた本当の問題(本当の当事者性)を「誤帰属させやすい」ということが、吃音に関しては往々にしてあると思います。本当に、吃音について悩んでいた時、僕らが求めていたのが、VRであったのか。当事者として、VRについてどう考えるのか。改めて、いろんな人と議論をしたいと思いました。とはいえ、新しいトピックだけに、刺激的な勉強会だったと思います。担当された梅津さん、ありがとうございました。